海外赴任が決まったけれど、どれくらいで現地生活に慣れるんだろう…?
まだ、なかなか赴任先の文化に適応しきれてないかも…
日本とは違う所に行くんだよなあ…なんだか不安…
・・・海外生活に不安になる気持ちは、とってもよくわかります。
私も実はそうでした。
今回は、私の周囲や私自身の実体験、そして当時の私のリアルな「記録」も引用して、どうやって海外赴任・海外生活に慣れていったかお話ししたいと思います。
と、その前に自分が向いているのか向いてないのか、どーしても気になる人は、こちらもチェックしてみて下さいね!
心理学的な「異文化適応の過程」について
ちょっと小難しい話になりますが、心理学的な分野でも「異文化適応における心理的な現象」という形で、実はいろいろと研究されてきていました。
「異文化適応の過程」についての、U字曲線とW字曲線の話を聞いたことはありますか?
1955年にノルウェーの社会学者、リスガード(Sverre Lysgaard)によって最初に提唱されて以降、多くの学者たちにより開発され、「調整用Uカーブ仮説」として”異文化の新しい環境下での、心理的な現象の変化を示した曲線モデル”として、現在広く知られることとなりました。
そして1963年には、その「Uカーブ仮説」をもとに、異文化の新しい環境の下で心理的にたどるUカーブに、”カルチャーショック”と”精神的孤立(再適応前のひずみ)”の二つの谷を持つ「Wカーブ仮説」が、ガラホーン(J.T.&J.E. Gullahorn)によって提唱されました。
海外生活だけでなく、新しい環境での生活が始まった時の心理状況も表すことが可能なんだそうです。
なんとなく小難しそうな雰囲気がしますが、言われてみると「確かに!!」と思える内容なので、ちょっとだけお付き合いくださいませ。
異文化適応の「U字曲線」モデル
「U字曲線」は、ハネムーン期・ショック期・適応期の3つから構成されています。
■ハネムーン期
見るものすべてが新鮮で、まだまだ旅行気分が抜けない時期。
仕事でも新しいことばかりで覚えることが多く、挨拶まわりなどをしているうちにあっという間に過ぎていく時期です。
■ショック期
生活も仕事もひと段落してきた頃に、やってくるのがショック期です。新社会人が5月病や6月病になるのも、このショック期といえます。
自文化と異文化のギャップで心理的にショックを受ける時期で、ハネムーン期では見えてこなかった嫌な部分が見えて、落胆してしまうこともあります。
ふと何気ないことで、日本が恋しくなったり、日本の友達や家族に無性に会いたくなったりします。
昔から1人でいることもむしろ好きだったので、私は絶対大丈夫だと思っていました。 でも、ある時に急にものすごい孤独感が襲ってきて、「え?私こんなに弱かった?」と自分でもびっくりしたのを覚えています。 これが「弱さ」ではなくて、新しい環境に飛び込んだことでの「心理的反応」だと理解できるまでは実はちょっと辛かったです。
■適応期
ショック期を乗り越えて、異文化に適応していく過程で非日常が日常へ変わっていく時期です。
ほとんど安定した生活を送ることができますが、それでもふと孤独感を感じたり、日本のものが恋しくなることも。
揺り戻し、ってやつですね。スペインで、和菓子が恋しくてあずきばっかり炊いてました。
異文化適応の「W字曲線」モデル
U字曲線をもとに、ハネムーン期・ショック期・回復期・適応期・ショック期の4段階で構成されているのが、「W字曲線仮説」です。
図からわかるかと思いますが、U字曲線との大きな違いは、リ・エントリー期があることですね。
■リ・エントリー期
適応期を経験し、帰国した人に訪れるのが「リ・エントリー期(精神的孤立・再適応前のひずみ)」です。
永住しないのであれば、日本帰国の日が必ずやってきます。
また永住者でも、違う環境に適応した後に「適応できるようになった自分」と以前の自分のギャップに苦しむこともあります。
…実は、まさに私はここまでを体験しています。
この知識を知っておいて良かったこと
こういった流れがあることを知っていると、例えば急に落ち込んだ時など「あ、これかな~」と受け入れることで、この状態がずっと続くわけじゃないと思えたり、自分の状態や気持ちが言語化されてすっきりできたんです。
自分の弱さや失敗なのではなく、「心理的にこういう状態があるのが普通」ということを知っているだけでも、実は結構気が楽になるんだと、実感しました。
実は、海外駐在員や海外で留学をしている人の中で、「元気で大丈夫そうな人」や「優秀で真面目な人」ほど、突然の体調不良やメンタルに問題が起きてしまって…というケースもよくあるそうなんです。
こういったことを知らずに、自分を追い込んでしまったり、不調を無理に隠して過ごしてしまうことで、更に悪化してしまう場合もあります。(下手すると、長く不調を抱えることも。)
いろんなことを知っておくことで、自分も周囲も楽にできたりします。
できれば、いろんなことを知ったり、いろんな人とつながったりすることを怖がり過ぎないことをおススメしたいです。自分の柔軟性が高まると、対処の仕方にも幅ができますよ。 これって、海外赴任だけではなく、日本でもどこでも言えることですよね!
海外生活そのものに慣れるのはどのくらいかかった?
それでは「異文化適応の曲線」に沿って、海外生活に慣れるまでの過程を、過去の自分の心理状態に当てはめて分析しつつ、サンプル例として紹介してみます。
当時の「記録」から断片的に引用もしたりとかなりリアルなので、イメージしやすいのではと思います。
私の場合、経験した海外生活は人生で(今のところ)二回目です。
20代終わりのイギリス留学時は、期限が1年間と決まっていましたが、その時も「本当にいろいろ」ありました。でも、その1年の期間内でもスペインの時よりも小さな波でしたが、今思うとこの順路を辿っていたと思います。
今回は、私がスペイン移住に慣れるまでの過程の実例でお話ししたいと思います。
私が完全移住する前の1年間は3か月ごとにスペインと日本を「行ったり来たり」していたので、最初をどこに定めるかはちょっとふわふわしていますが、完全移住後からにざっくりと当てはめてみました。
ハネムーン期
↓スペイン・アストゥリア地方の教会。スペインが始まった聖地でもあるんです!
確かに、眼に入るものすべてが面白くて、どんなちょっとしたことでも楽しめてワクワクしていた時期でした。
近所での買い物やスペイン風の挨拶(両頬にキス)にも比較的すぐ慣れて、スペイン語を話せない割に、言葉に対する不安もそれほど大きく感じていませんでした。
近所をお散歩するだけで、全てがキラキラ見えて、まさに毎日が旅行気分でした。(…新婚だったのもあります。苦笑。)
私の場合は、移住してから大体3ヶ月間くらいだったと思います。
友人に書いたメールの中で
…すっかり「解脱」した気分。トマト美味すぎ!スペイン料理は思っていたより口に合う!
毎日こんなに楽しくていいのかと不安に思うほどだけど、そろそろスペイン語の勉強もしなくてはいけないんだよね。。。40代でまさかの受験勉強するなんて。(涙)
唯一辛いのは、シャワーだけでお風呂が無いこと。肌の調子がイマイチ。
という、大変浮かれた感じで、のんびりムードなことを綴っていました。
この頃は、外での挨拶程度のみスペイン語、家では100%英語生活でした。(当時は、英語を使う生活には慣れていたので、英語によるストレスは少なめでした。)
ショック期
↓奥に見える緑のタワーは、名産品のシードル(リンゴの発泡酒)の瓶のツリー。おつまみはタコがオススメ。
3ヶ月ほどで、とりあえず生活全般にはすっかり慣れました。
ただ、この頃にスペイン語の自宅学習を始めたのですが、スペイン語に拒否反応が出て、忙しい中スペイン語を教えてくれる夫へ当たったこともありました。(家での会話は英語90%、スペイン語10%でした。)
以下は、私が当時のスケジュール帳の片隅に書いていた「リアルな不平不満」です。
…スペイン語の音が嫌いで仕方がない。英語と違って、音が乱暴に聞こえる。同じアルファベットなのにスペルもうまく綴れない。これは永遠に慣れることができない気がする。
今はスペイン語を聞くといつも頭痛がする。ちょっと前に好きだったスペインのドラマも、今は全く見たくなくなってしまった。。。
お風呂に入りたい。おはぎが食べたい。〇〇のお蕎麦が食べたい。百均に行きたい。。。
期間的には、半年間ぐらい波打っていた状態です。(もう既にW字ではないのか?苦笑)
実は、この時期に日本との書類の手続きが重なり、いろいろと精神的にも肉体的にも振り回された時期でもありました。(家族は、日本と違う環境なことを理解してくれず、大変苦労しました。)
私を心配した友人達が、日本の食材がたくさん詰まったスーツケースを持ってスペインまで来てくれたのもこの頃で、本当に励まされました。
ありがたかったのは、夫が落ち込みがちな私の気分転換のために、スペインのいろんなところに連れ出してくれたことです。
グラナダのアルハンブラ宮殿やタパス街巡り、コルドバのメスキータに牛テール煮込み、バスク地方ではたくさんのピンチョスを食べ、学校の教科書で見ていた「アルタミラの洞窟」の実物に行き、スペインならではの聖週間(セマナサンタ)の厳かな行列…
再び、改めてスペインに興味を持つきっかけをたくさんもらいました。
スペイン語に対する拒否反応が少しずつ和らぎ始めたのは、夫を含め周囲のスペインの人たちの「何気ないけれど、温かい励まし」でした。
旅先で、偶然話しかけてくれたスペイン人ガイドさんが「え?日本人!?あなたのスペイン語、とってもキレイよ!」と褒めてくれたのが、すごくうれしかったのを覚えています。 なぜか、スペインでは出会っただけの人から「素晴らしいわ!」とやたらめったら褒めてもらってた記憶があります。
でも、実はこの頃から更年期が始まりだしたのか、日々安定しない体調に右往左往する日々でした。今思うと、ストレスが大きかったのかも。。。病院にこの頃から頻繁に通い始めることになります。
回復期
↓スペインのカタルーニア地方の地中海沿岸の村、画家ダリの愛したカダケシュ。
改めて、またスペインや周囲に関心や興味が持てるようになった時期です。
自宅学習の限界から、スペインの語学校に入学して、超ド初級からのスタート。周囲のクラスメイトは私よりも話せる人ばかりでした。
ちょっと癖のある20代の中国人女子とコンビを組み、少しずつ話せるようになっていきました。
…今日は学校に遅刻してすみません。うっかりバスに乗り間違えて、ちょっと焦った。
いろんな国の人同士がスペイン語で話しているのがちょっと笑えるけど、みんなスペインで頑張っているのがすごくよく分かる。私も早く雑談にもっと加われるようになりたいです。
それにしても今日、〇〇(中国人女子)から「粉ミルクの輸入ネットビジネスを一緒にやらない?」と真剣に誘われたのにはびっくりした。関税のことも分からないのに、進めようとするあの勢いは凄いと思った。…でも、ほとんど私にやらせる気満々の申し出には苦笑いだ。
・・・これは、クラスの後に書くジャーナル(日記)から見つけました。
笑っちゃうのがこれを読んだ先生からも、「確かに君は、何かビジネスしそうな感じがするんだよね~やればいいのに!」と起業を勧められたことです。(もちろん、乗りませんでした。笑)
この頃の内外含めての日常会話は、スペイン語80%・英語20%(入り組んだことの補足など)の割合になっていたと思います。
多分、この期間は3〜4ヶ月くらい?だったと思います。
適応期
↓スペイン北西部・カンタブリア地方の小さな漁港。イワシが美味しかった!
ほぼ日本にいた時のような、落ち着いた気持ちで日常を送れるようになったことに気付いたのは、移住してから1年半後ぐらいだったかと思います。
大きいのは、私の場合はやはりスペイン語の上達度合いです。
周囲に日本人がいないため、スペイン語を話す友人が増え、自然に独り言もスペイン語になっていきました。
家での日常会話は、1年目以降からほぼ100%スペイン語になっていましたが、スペイン語に馴染んだなと感じたのが移住してから1年半後~2年目前後の頃です。
そしてこの頃以降、実際に仕事が舞い込んだり、プロジェクト単位の仕事に参加したり…ということを積極的に始めました。
私の場合、日本には私用と所用合わせて1年に1-2回帰国ができるという、恵まれた環境でした。
そして毎回の帰国で、改めて日本の良さを実感しています・・・マジつぶあんって最高!
リ・エントリー期
↓「スペインの美しい村コンテスト」にもエントリーされた、ガリシア地方の小さい漁港。
…そう、私の場合はこの「リ・エントリー期(精神的孤立・再適応前のひずみ)」があります。
これは私の場合、帰国の度に起こる傾向があります。
日本の周囲にとっては「以前と変わらないモニカ」のつもりでも、私自身は「スペイン以後のモニカ」であることが理由なのでは?と感じています。
このギャップは、私の中で短時間では埋めるのは難しく、苦しいものです。なぜなら、自分の中で折角苦労して習得した部分を、習得する前の部分に合わせたりしなければいけないからです。
ただ、現時点で言えるのは、いろいろと全く違う価値観を経験したことで、自分の中では新しい価値観がはぐくまれたこと。それは再び日本の商習慣に順応する場面でも、以前より柔軟に対応できるという自信の支えにもなってくれています。
もちろん、「日本のきちんとした所はやっぱり素晴らしいな~」「一生懸命ってこういうことだよな~!」と改めて感動することもある反面、報道や謝罪などを見て「…ちょっと何かと責め過ぎ?」な部分が改めてみると窮屈に感じることもあったりします。
一方、スペインでは、「謝るべきところでも絶対謝らない態度」や「なにかと雑でおおざっぱな対応」にイライラすることもありますが、一方で「おおらかで、何かと許せる国民性」や社会全般に行きわたっている「他人への底なしの優しさ」には、時には感動さえ覚えることもあります。
日本と海外、どちらの良いところも認めていきたいし、そうじゃない所も受け入れて…いろいろと葛藤はありますが、自分の中で消化していければいいなと思っています。
海外赴任から帰国した人も、きっと同様の苦しさやもどかしさを感じているかもしれませんが、この経験は絶対、仕事にも私生活にも活きます!
私が実感したのは、仕事の際の提案や難題にぶち当たった時の「脱し方」の際に、以前より幅ができたような…よりタフになれた気がします。
海外生活にはかならず慣れるから安心して!
・・・ということで、私自身の過程を振り返りながら綴ってみました。
それぞれの過程は、個人差があるので人によって慣れる期間は異なります。
私が辛い時期をなんとか乗り越えてこれた理由としては、
- 落ち込んだり興味が持てない時は、現実逃避しても良し。(旅行はオススメ!)
- 無理に自分を追い込まないこと。
- 時には、周囲の力を頼ってみる。(愚痴ったり、遊んだり。褒めて!と頼んでも良し!)
- 体調と心は繋がっているので、ちょっとした変化も侮らずに。
- とにかく睡眠をたっぷりとるようにする。
・・・など、これらがポイントだったのではと思っています。
海外にいることで、自分でも意識しないうちにストレスやショックを感じていた、ということもあるので、自分でリラックスできる方法や「ルーティーン」を探しておくといいかもしれません。
海外在住の元上司から「疲れたら寝る」というシンプルなリセット方法を教えてもらいました。 頭が冴えてしまってとか、くよくよしすぎて眠れない時は、ストレッチしたりして少し体を疲れさせて寝る、というのをやっています。
慣れる方法や期間も個人差がありますが、その状況を楽しむことも大事ですよね。
楽しむコツについては、こちらで詳しく書いています♪
海外赴任で行き詰ったら、ぜひ今回の記事も参考に「他の人もそうなんだ~」と気を楽にしてもらえたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
海外で「日本にいる時はそうじゃなかったのに、こっちに来てから何か違う…」という自分の中の心の動きを見た時に、こうしたアプローチがあることを知って、「なんだ~研究されてるぐらい、みんなあるんだ~」と、すごく気が楽になったんです。